1. ネタ名と芸人名
ネタ名：「機関車トーマス」
芸人名：笑い飯（西田幸治・哲夫）
2. 役割構造（コンビ内の機能分担）
リアクター主導型＋ボケの継承型構造
哲夫がスタートの“語り”を担う一方、途中からボケとツッコミの役割が混線。西田がボケを爆走しつつも、哲夫も別ラインでボケる。中盤以降は“擬音を活用した流れ”に対しての“爆裂リアクション”として、西田の「リアクター性」が支配的になる。
3. 型（構造・スタイル）
フレーズ反復型＋構造破壊型＋回収型
「機関車トーマス」の絵本記憶ネタで始まり、次第に“顔のある機関車”という着想をフリーダムに展開→脱線しながらも、後半で「おばあさんに席を譲る」擬音を活用したネタにシフト。ラストでは再びトーマスに言及して“回収”し、構造美も意識されている。
4. ネタスタイル（演技・テンポ・空気）
リズム＆ワード重視型＋演技＆空気重視型
ダダッダダやババンババンなど、音感・テンポが笑いの触媒となる擬音を活用したネタ要素が強い。加えて、哲夫の棒読みナレーション、西田の鋭い叫びツッコミ、すれ違うタイミングで笑いの“間”を絶妙に操る。
5. 構成要素の流れ
- ツカミ：「トーマスの思い出」からの記憶の食い違い
- 展開①：「トーマス」設定の暴走（顔がついたコップ、機関車レナ etc.）
- 展開②：「席譲る」場面での動作と台詞のリズム化
- クライマックス：「ババンババン」リズムが爆発しカオスに
- オチ・回収：再び「機関車トーマス」に戻し「さっきのネタ面白かったなあ」でセルフ言及のメタ終わり
6. 笑いの源泉
- ズラし：「顔に機関車がついている」「機関マス」「アリマス」などの設定転倒
- 誇張：「吊革のびる」「顔面機関車人トーマス」
- 構造遊び：「機関車トーマス」の反復・破壊・再構築
- 感情の暴走：西田の「見た見た見たわ！」などのテンション高いツッコミ
- 言葉遊び：「ダダッダダ」などの音の繰り返しによる音的な笑い
7. キャラのタイプと関係性
哲夫＝ナレーター＆素朴ボケ／西田＝暴走型リアクター＆サブボケ
二人ともボケ要素を持ちつつ、西田の感情リアクションが“笑いの決定打”を担っている。典型的なボケ・ツッコミを超えた「両軸的関係性」。
8. 演技・パフォーマンス面
- 哲夫：棒読みナレーション、機械的な反復、無表情な脱線
- 西田：鋭いツッコミ声、怒鳴るようなリズム、効果音への的確な乗り
- 二人の「音の使い方」が視覚的想像を超えて“聞く笑い”を生む
9. 客観的コメント
笑い飯は「発想の強さ」だけでなく、その発想をどう脱線し、どう戻すかという“構造のアクロバット”で観客を巻き込む。このネタは「絵本記憶」という誰もが持つ共感ポイントを出発点に、意味が崩壊しながらもテンポが構築されていく。その脱線っぷりがむしろ精緻で、最後の「自分で面白かったと言う」メタ終わりがネタ全体を肯定する。
10. 最終コメント
笑い飯の「機関車トーマス」は、シンプルな思い出話から始まり、言語と構造の限界に挑むかのような“トーマスの再構築”に至るまで、笑いの純度を極限まで高めた逸品だ（設定は昔話でありきたりだが、機関車トーマスを選ぶのが笑い飯らしいと感じる）。哲夫のナレーション風の棒読みボケは、意味のあるようでない“無”を連打し、西田のリアクションが観客の笑いの感覚と完全に同期する。途中からは「譲る」という美徳的行為をボケにし、音と動きが笑いのエネルギーに転化される。何度も繰り返される「ダダッダダ」や「ババンババン」は、まるで呪文のように観客の意識に刷り込まれ、言葉自体が笑いのリズムを持ち始める。このネタの凄みは、構造が破綻しているようでいて、回収と終結に向けた設計にある。笑い飯の真骨頂は、やはりこの“カオスと構造のあいだ”にあるのだと実感させられるネタだ。
【書き起こし】
西田
どうも～、笑い飯です。
哲夫
お願いしま～す。
あの、ちっちゃいときってな、よう枕元でお母ちゃんに絵本とか読んでもらわへん？
西田
ああ、読んでもろたな。
哲夫
俺、一番覚えてるの、機関車トーマス。
西田
あれ、面白いやん。
哲夫
面白いやろ。
西田
機関車に顔ついたやつやろ？
哲夫
せやねん、せやねん。
あれでな、一番覚えてるとこあんねんけど、言うてええか？
西田
ちょ、お話せえや、お前。
哲夫
機関車トーマス。
今日、トーマスは山の頂上に向けて出発しました。
途中、山の中腹で友達のゴードンに出会いました。
そこでトーマスはこう言いました。
……おしまい。
西田
どこで終わっとんねん、お前！
内容ゼロやないかい。
それやったら、お前、俺のほうがよう覚えてるわ。
哲夫
お前、覚えてんの？ 言うてみぃな。
西田
機関車トーマス。
トーマスは機関車に顔が付いている乗り物です。
哲夫
その「機関車に顔ついてる」とかいう説明の文なんか絵本に出てこうへん！
西田
食堂車でお皿やコップの…
哲夫
勝手なこと言うな！
西田
底にも顔がいっぱい付いています。
哲夫
気持ち悪いわ、アホ！
そんなんないやん。違うがな！
哲夫
機関車トーマス。
今日、トーマスは走っていました。
……おしまい。
西田
だから、どこで終わんねん、お前のは。
機関車トーマス。
哲夫
なんで今さら森本レオやねん！
さっきまでしてひんかったやないかい！
西田
トーマスは、機関車に顔が付いています。
哲夫
だから、「機関車に顔付いた乗り物や」いう文ないねん！
西田
顔の部分でトンネルを掘り進みます。
哲夫
勝手なこと言うな！
それはそれ専用のヤツおるやろ、「機関車レナ」
西田
レナ？ 誰やそれ。勝手なヤツ出すな、お前。
大車輪オトーマス。
哲夫
それなんやねん！
西田
父親のオトーマスは顔が付いています。
哲夫
だから顔付いてるいう文ないねん！
偽善者トーマス。
西田
なんやねん、それ。
哲夫
トーマスは決して自分の非を認めようとしません。
西田
道徳やないか、それ。
機関車に顔がアリマス。
哲夫
ただの文やん。
西田
アリマスは今日、顔が…
哲夫
アリマス、名前かい！
機関マス。
西田
短い！ 詰めすぎじゃ、アホ。
顔面機関車人トーマス。
哲夫
それなんやねん！ 違うやん！
顔機関車トーマス。
西田
顔機関車てなんやねん。
哲夫
顔に機関車が付いています。
西田
逆や！ 機関車メインや！顔ちょっとや！
猛スピード顔。
哲夫
それなんやねん！
顔の話。
西田
顔の話？
哲夫
顔は今日…
西田
顔以外出えへんやないか。
哲夫
なんやねん。
西田
なんやねんお前の。
哲夫
せやけどな、そんなしてな、絵本とか読んでもうたらやな、やっぱ心の優しい子に育ったな。
例えば電車とかで、老人にすぐ席譲ったりするやんか。
俺なんか、鮮やかな譲り方すんで、お前。
西田
ちょっと見せてくれよ。
（効果音）ダダッダダ ダダッダダ。
哲夫
あっ、おばあさんや。
おばあさん、どうぞここ座ってください。
西田
めちゃ好青年に見えるわ、お前。
ダダッダダ ダダッ…横空いとんかい！
なんで代わってん、おい！
哲夫
おばあさんや、ここ座ってください。
西田
また空いとんかい！
哲夫
おばあさんや、ここ座ってください。僕立っときます。
西田
立っとけ！ ダダッダダ ダダッ…
哲夫
（バーン バーン バーン バーン バーン）
西田
また座るんかい！ 電車ガラすきやないかアホ！
満員電車でせえ！
哲夫
満員でやるんかいな？ ババンババン ババンババン。
西田
あっ、おばあさんや。
哲夫
そんなんいらんぞ。
西田
おばあさん！ おばあさん！ 座ってください、僕立っときます！
哲夫
ババンババン ババンババン…。
西田
あっ、向こう空いた！
哲夫
ババン…吊革伸びすぎや！
ゴムとかとちゃうねん、お前。
何してんねん、代われアホ！
西田
ダダッダダ ダダッダダ。
哲夫
あっ、ジョナサンや！ ジョナサン！
西田
おばあさんや！ 代われ！
哲夫
ババンババン ババンババン。
おばあさん、僕立っときます。
哲夫
ババンババン ババ…
吊革の位置が高いわ！
もうちょい低いねん！ 代われ！
コントするんで、みなさん隣の車両に移ってくださ～い。
西田
それ、どういうことやねん。
ダダッダダ。
哲夫
あっ、おばあさんや！ どうぞここ座ってください。
西田
見たわ～！
哲夫
ここ座ってください。
西田
見たわ～！
哲夫
ここ座ってください。僕、立っときますんで。
哲夫
バーン バーン バーン。
西田
見た見た見たわ～！
みな見たわ！
見てへんのせえ！
哲夫
ババンババン…。
西田
あっ、おばあさんや！
哲夫
見たぞ～。
西田
ここ座ってください。
哲夫
吊革、のびるやつは見たぞ～！
切ってまで持っていくな！
どんだけ吊革ほしいねん！ 代われ！
西田
ダダッダダ。
哲夫
あっ、おばあさんや。代わりませんよ～。
西田
代われや～！ 代われ！
哲夫
ババンババン ババンババン。
西田
あっ、おばあさんや。僕、立っときます。
哲夫
ババンババン バ…ナナメの電車すな！
それなんやねん！ 代われ、お前！
西田
ダダッダダ ダダッダダ ダダッダダ ダダダダダダッ ダダダッ！
哲夫
へたクソ！ さっきうまかったやないか！ 代われアホ！
デデンデデン デデンデデン。
西田
あっ、おばあさんや。座ってください。
僕、次の駅で降りるんで大丈夫ですよ。
哲夫
ダイジョブデスヨー。デデンデデン。
ダイジョブデスヨー。
機関車トーマスゥー。オモシロカッタナァー。
機関車トーマスゥー。
機関車トーマスゥー。
機関車トーマスゥー。
オモシロカッタナァー。
機関車トーマスゥー。
西田
お前、何しゃべってねや！
哲夫
さっきの機関車トーマスのネタ、面白かったなあ言うて。
西田
自分で言うんかい！
もうええわ！
