【M-1グランプリ2004】南海キャンディーズ『医者』分析/書き起こし

1. ネタ名と芸人名

  • ネタ名:「医者」
  • 芸人名:南海キャンディーズ

2. 役割構造(コンビ内の機能分担)

  • 逆転型+キャラ型のハイブリッド
    • 一見すると山里が典型的なツッコミ・進行役で、しずちゃんがボケを担う構造に見えるが、実質的な笑いの発生源や“主導権”はしずちゃん側にある。特に「火を怖がるサイ」「うどんこねだす」「これはクリリンの分」など、意味不明だが強烈なイメージをねじ込んでくる主導権の逆転が顕著。

3. 型(構造・スタイル)

  • 構造破壊型+ワールド構築型
    • 医者コントという“共通の世界観”を最初に提示しながら、しずちゃんが突如「サイ」「なまはげ」などでその枠を破壊する。
    • コント中盤以降は「医者の世界観」→「妖気を感じる」「クリリンの分」「なまはげ」と連鎖的に現実感が崩壊していく、構造破壊の妙がある。

4. ネタスタイル(演技・テンポ・空気)

  • 演技&空気重視型
    • 山里のセリフはリズムやツッコミワードよりも“リアクション”に主眼が置かれており、感情の起伏や困惑の演技が重視される。
    • しずちゃんは逆に“感情を乗せないナチュラルな奇行”で空気を支配する。

5. 構成要素の流れ

  • ツカミ:山里のセクシー発言と「しゃべる岩」で印象を作る。
  • 展開:「医者になりたい」→コントスタート。
  • クライマックス:患者の意識が下がり、「心臓マッサージ」「妖気」「クリリン」などでカオスが極まる。
  • オチ:「なまはげのコント」発言で再度世界観崩壊して強制終了。

6. 笑いの源泉

  • ズラし:「火を怖がるサイ」「なまはげ」など医者の文脈と全く噛み合わない設定を唐突に差し込む。
  • 構造遊び:「医者コント」という定型を破壊しながら進行。
  • 感情の暴走:山里の「痛いよ しずちゃん」「妖気感じる」など、追い詰められていく感情表現。
  • 言葉遊び・誇張:「涙で明日が見えない」「うどんこねだした」など比喩の暴走も一部に含まれる。

7. キャラのタイプと関係性

  • 山里(外見:ツッコミ/内実:被害者ボケ)
    • セリフ上は進行役だが、実質的にはしずちゃんの世界観に振り回されている存在。
  • しずちゃん(外見:ボケ/内実:ナビゲーター兼世界構築者)
    • 設定やボケの大半をしずちゃんが担い、笑いの起点を支配している。

8. 演技・パフォーマンス面

  • 山里:声のトーンとスピードの緩急が巧みで、困惑・絶望・怒りの演技が細やか。
  • しずちゃん:棒読み的なナチュラル演技が強烈なボケと矛盾し、異様な空気感を生む。

9. 客観的コメント

  • 狂気と抑制のバランスが絶妙なネタ。特に“医者コント”という王道の設定に対して、しずちゃんが「火を怖がるサイ」や「クリリンの分」など突拍子もないボケで構造を破壊し、それを山里が「涙」「妖気」「うどん」などで感情的に回収しようとする試みが斬新。ネタを“成立”させるためにではなく、“崩壊を防ぎながら成立未満で笑わせる”高度な演出力が光る。

10. 最終コメント

このネタは、一見「医者コント」という王道設定に見せかけて、実は設定そのものを突如破壊していく“構造崩壊コント”の極致である。しずちゃんの放つ「火を怖がるサイ」「なまはげ」「これはクリリンの分」など、脈絡のないフレーズは観客の想像を意図的に裏切り、笑いと混乱を同時に誘発する。そして、その世界観崩壊の責任を一身に引き受けるかのように山里が感情のリアリズムで応酬し、「涙で明日が見えない」「妖気を感じる」といった感情の誇張でボケを回収する姿勢は、ツッコミを超えた“絶望芸”に近い。南海キャンディーズの真骨頂は、この“力関係の逆転”と“意味のなさに意味を与える演技力”にある。他のネタと比べても、このネタは山里の無力感としずちゃんの奔放さが極端に増幅され、より「コントの崩壊」を笑いの源とした傑作である。全体を通じて感じるのは、計算された混沌の美学。演者の力に依存しながら、構造そのものが無重力で進む稀有な作品だ。2004年当時では男女コンビでこのパワーバランスが珍しく、南海キャンディーズが大舞台に飛び立っていくきっかけとなった一作。


【書き起こし】

(山里)どうも~
(山里)南海キャンディーズです
(しずちゃん)バ~ン
(山里)いや~ね~
(山里)セクシーすぎてごめんなさいね~ うん
(山里)ねえ皆さん、その怒りの拳は日本の政治にぶつけてください
(山里)いや~ね~ 僕らね、南海キャンディーズと申しまして
(山里)うちのしずちゃん、おっきいでしょ?
(山里)しずちゃん、身長いくつか教えてあげて
(しずちゃん)182
(山里)ナイスざわざわ、いいね~ うん
(山里)しずちゃん、小学校のときのあだ名 何だっけ?
(しずちゃん)しゃべる岩
(山里)子供って時に残酷よね、うん

(山里)まあそんなことより しずちゃん聞いてよ
(しずちゃん)何?
(山里)実はね 僕ね、すっごいやりたいことがあるんですよ
(しずちゃん)女の子にいたずら?
(山里)う~ん この顔にそれはリアルすぎるよ、違うよ
(山里)いやね、実は僕ね、お医者さんになりたかったんですよ
(しずちゃん)ブブ~
(山里)平成16年だよ、しずちゃん おてんばが過ぎるって、いいじゃない
(山里)あれがやりたいんですよ、助手のナースに「メス」とか「汗」とか、あれかっこいいじゃん
(しずちゃん)そんなん 山ちゃん できんの?
(山里)いや、できると思うのよ
(しずちゃん)ほな ちょっとやってみようや。じゃあ山ちゃん お医者さんやって
(山里)分かった
(しずちゃん)私、火を怖がるサイやるから
(山里)メス、メス…ダメだ 俺こんな状況、生まれて初めてだ。ごめん

(山里)しずちゃん しずちゃん
(しずちゃん)あかん
(山里)何だい?
(しずちゃん)動物にとって火の存在がどんなもんか分かってんのか! 火は脅威やで!(息を吐きながら)脅威やねんで、ハ~ッ
(山里)しずちゃん この温度差感じてよ、なんだよ。いいかい?ナースやって、分かる?
(しずちゃん)なまはげ
(山里)新しすぎるって、新しすぎるよ。そして俺、なまはげのコントを広げれる自信がない。医者とナースでいこう、うん

(山里)よし、ただ今よりオペを始める
(しずちゃん)はい
(山里)山崎君、患者はどうだ?
(しずちゃん)はい、フフッ、おもろい顔してます。ここのホクロが鼻クソみたいで
(山里)オホホ、殴りてえ。病状 教えて
(しずちゃん)大変危険な状態です
(山里)よし、早速オペを始める。メス
(しずちゃん)はい
(山里)こりゃひどい。汗
(しずちゃん)はい シュ~ッ
(山里)メス
(しずちゃん)はい
(山里)汗
(しずちゃん)はい シュ~ッ
(山里)ごめんとしか言えないわ
(しずちゃん)先生 大変です
(山里)どうした?
(しずちゃん)患者の意識レベルが下がっています
(山里)なに? 山崎君、患者を勇気づけてあげるんだ
(しずちゃん)はい。頑張って、絶対に諦めちゃダメよ。こんな顔でも生きていこうとしてる人もいるんですから
(山里)涙
(しずちゃん)はい
(山里)ヤバい 涙で明日が見えない
(しずちゃん)キモい先生
(山里)“先生”だけでいい。おい 今オペ中だ 集中しろ
(しずちゃん)店長
(山里)おう、先生だよ
(山里)お~い しずちゃん、中盤でトリッキーなことすんなよ
(しずちゃん)先生
(山里)何だよ
(しずちゃん)患者の心拍数が下がっています
(山里)なに! 山崎君 心臓マッサージだ。できるな?
(山里)おお~ 俺ビックリが下手な人、初めて見た。いいよもう 俺やるよ
(山里)いくぞ せ~の、1・2! 1・2!
(しずちゃん)なあ、先生 うどんこねだしたで
(山里)心臓マッサージ! おお~俺、それ漫画でしか見たことねえや。いいよ黙って見とけよ。よいしょ 頑張れ、帰ってこい!
(しずちゃん)ピッ ピッ
(山里)帰ってこい、頑張れよ
(しずちゃん)ピッ ピッ
(山里)帰ってこい 帰ってこい
(しずちゃん)ピッ ピッ ピッ ピッ
(山里)あれ? 左から妖気を感じる
(しずちゃん)ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ ピッ
(山里)ダメだ。俺こんなじゃじゃ馬扱えねえよ
(しずちゃん)ピッ ピッ
(山里)痛いよ、しずちゃん 痛いよ しずちゃん!
(しずちゃん)これはクリリンの分!
(山里)何言ってんだよ。お~い、俺 クリリンに恨み買うこと1個もやってねえよ。お~い ちょっと待てよ、何が始まるんだよ
(しずちゃん)なまはげのコント
(山里)もうっ!

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

PAGE TOP