1. ネタ名と芸人名
ネタ名:「タクシー」
芸人名:東京ダイナマイト(松田大輔・ハチミツ二郎)
2. 役割構造(コンビ内の機能分担)
リアクター主導型+逆転型ツッコミ構造
松田が常軌を逸した設定・行動を連打するボケだが、単純なボケではなく“状況支配者”としての位置を維持し続ける。一方の二郎はツッコミであると同時に、ボケの異常性にリアクションし、時には自身のズレ(例:「壊れかけのRadio」ネタ)も提示する。このため、ツッコミが時にボケ化する逆転構造も発生している。
3. 型(構造・スタイル)
テーマ追求型×フレーズ反復型×回収・伏線型。
「タクシー」というシチュエーションを軸に、運転手ボケのディテールをひたすら膨らませていく「テーマ追求」。そこに「ピーナツ」「壊れかけのRadio」などの要素を反復・変形させていく。また、「まだエンジンかかってません」などのフレーズが終盤で回収される。
4. ネタスタイル(演技・テンポ・空気)
ナチュラル会話型×演技&空気重視型。
松田の「変なタクシー運転手」演技と、それを現実的に制御しようとする二郎の自然な会話が対照的。あくまで“現実に存在しそう”なテンションで異常を演出している。
5. 構成要素の流れ
- ツカミ:「刀を抜けない」意味不明な小芝居で観客の興味を惹く
- 展開:給料2兆円、セスナ、タクシーなど現実逸脱ネタへ加速
- クライマックス:松田の暴走タクシー運転と「ピーナツ」「スンズク」などの飛躍
- オチ:「来たところに戻っている」+「エンジンかかってない」
- 回収:ピーナツ・エンジン・トラックへの変身など、過去のボケを収束
6. 笑いの源泉
- ズラし:「ピーナツが耳に詰まってる」「塗り絵をしている」など非論理的な設定
- 誇張:「給料2兆」「セスナを捨てた」など富の荒唐無稽な誇張
- 構造遊び:「直りかけのRadio」「スンズクなまり」など言語の転用と展開
- 感情の暴走:松田の無根拠なテンションと、二郎の疲弊ツッコミとの対比
- 言葉遊び:「壊れかけ/直りかけ」「スンズク」などの言語の反復変形
7. キャラのタイプと関係性
- 松田:状況支配型ボケ。感情を暴走させず、あくまで冷静に逸脱し続ける。
- 二郎:常識人でありながらも、ツッコミというより“相手に押し切られるリアクター”に近い。途中から“自分でもネタを言いたい”欲がにじみ、松田の手のひらで踊る。
8. 演技・パフォーマンス面
松田の声色とリズムは落ち着いているが、発言内容は明らかに異常。そのギャップが笑いの核。身振りも控えめだが、クラクション音・急ブレーキ音など擬音の使い方でテンポ感を保つ。二郎のツッコミは「驚き」を基盤にしたリアルな演技で、観客の視点を代弁。
9. 客観的コメント
このネタの妙は、“非現実を現実の文法で語る”点にある。演技や語り口はあくまで現実的で、声を荒げず冷静にボケ続けることで異常性が際立つ。観客は松田の言動に呑まれるが、二郎のリアクションが常に道標となり、混乱の中に筋を通す。このバランスは高度であり、爆発的なボケよりも“じわじわした狂気”が笑いを生む。
10. 最終コメント
東京ダイナマイトの「タクシー」は、現実の境界を一歩ずつ踏み越えていくボケと、常識人の皮を被ったツッコミからなる。松田の演じるタクシー運転手は、常に「こちらが正気だ」と言わんばかりのトーンで異常を繰り出し、観客を混乱に巻き込む。ピーナツ、スンズク、塗り絵、壊れかけのRadio……。一見バラバラに見える要素が、「異常な日常」への道筋として機能し、最終的に“まだエンジンがかかっていなかった”というオチに回収される。二郎のリアクションは、ツッコミの枠を超えて松田の世界観を肯定しながら突き放す絶妙なバランサーとして機能する。ハイテンションでもシュールでもなく、“静かなカオス”として独特な一本。個人的には、奇をてらった刀の導入は漫才とのつながりが無く疑問が残った。また、審査員のコメントにもあった「パンチがない」というのにも同感せざるを得ない(芸人として正しい方向性にインパクトが残せなかった印象)。
【書き起こし】
(松田)いや~大事な決勝戦。刀持ってきたぞ~い。ねえ、抜いちゃうぞお前。あれ、抜けねえ。抜けねえ二郎じろうちゃん。俺、優勝したら抜けるかもしんねえぞ~い。
(二郎)とりあえずしまっとこうか。
(松田)とりあえずしまっていくぞ~い。
(二郎)はい、東京ダイナマイトです。よろしくお願いします。
(松田)大変ですけどもね、ええ、ええ。
(二郎)まあ、空前のお笑いブームということで。
(松田)お笑いブームですね。
(二郎)我々の給料も飛躍的に上がりました。
(松田)上がりましたね、ええ。
(二郎)先月なんか、いくらもらったと思います?
(松田)大変ですよ。
(二郎)2兆ですよ。
(松田)ありがとうございます。
(二郎)2兆もらったんですからね。今日なんかヘリコプターで来ましたから。
(松田)私、セスナで来ましたから。
(二郎)まあでも、止めるとこなかったんでね、捨ててきましたけども。そんなこんなでね、タクシーの移動が増えたんですけども。
(松田)増えましたね、ええ。
(二郎)でも東京のタクシーが腹が立つ。
(松田)腹が立つね。
(二郎)道を知らない。
(松田)知らない。
(二郎)口の利き方も知らない。
(松田)知らない。タクシー、怒るぜ、しかし。(いびき)
(二郎)タクシー。
(松田)キ~ッ。
(二郎)寝てたろ今。大丈夫か?
(松田)はい、大丈夫です。お客さん、どこまで?
(二郎)新宿までお願いします。
(松田)じゃ、飛ばしていきますか。
(二郎)いいよ、急いでないから。
(松田)ブッブ~ン、キ~ッ。
(二郎)怖い怖い、怖い怖い。
(松田)キ~ッ。
(二郎)怖い怖い…
(松田)キ~ッ、ドカ~ン。
(二郎)随分荒っぽい運転だな。
(松田)え?
(二郎)随分荒っぽい運転だな。
(松田)お客さん、すいません。こっちの耳、ピーナツが詰まってるんで—もっと大きい声で。
(二郎)取りゃいいじゃねえかよ。荒っぽい運転だね。
(松田)そうです、タクシーですけど。
(二郎)聞いてねえよ、そんなこと。
(松田)ああ、そうですか。じゃ、そろそろエンジンかけますね。
(二郎)かかってなかったのかよ。大人2人で何やってたんだよ今。
(松田)は?
(二郎)俺“怖い怖い”って言ってたじゃねえかよ。
(松田)あの、ピーナツが入ってるんで、もっと大きい声でお願いします。
(二郎)大人2人で何やってたんだよ。
(松田)ああ、そうです。タクシーですけど何か?
(二郎)分かってるよ。俺が手ぇ上げて止めたタクシーだ。
(松田)お客さん、ところでどちらまで?
(二郎)新宿まで行ってください。
(松田)分かりました。スンズクね。お客さん、あたすね—スンズク生まれのスンズク育ちなんです。スンズクのこと隅から隅、全部分かりますから。
(二郎)俺、スンズクなまりっつうの初めて聞いたんだけど、あるんだね。
(松田)ゴニョゴニョ シュッ。
(二郎)今、何て言ったの?
(松田)適当です。
(二郎)適当か! 適当に言ってんの、お前?
(松田)はい。
(二郎)いや、僕ね。
(松田)ええ。
(二郎)実はね、今英会話教室通ってんですけど。
(松田)通ってるね~。
(二郎)英会話教室通ってる…
(松田)通ってるね~。
(二郎)通ってるんですけど。
(松田)通ってるね~。
(二郎)そんな通ってねえわ。週1回しか行ってねえんだもん。
(松田)ああ、そうですか。
(二郎)で、宿題で教材のテープ聴かなきゃいけないんですけど、ウォークマンが壊れてて—“壊れかけのRadioレディオ”みたいになってんですよ。
(松田)お客さん、面白いこと言いますね。ちょっとクラクション鳴らしておきます。プップ~。
(二郎)いいよ、周りの人何だか分かんないんだから。
(松田)あ~そうですか。
(二郎)“壊れかけのRadio”になってる。
(松田)あ~これ、金具外れてますから。金具くっつけて…
(二郎)直ったの?
(松田)直りかけのRadio。
(二郎)直りかけのRadioって何だよ? “壊れかけのRadio”と変わんねえじゃねえかよ。
(松田)キ~ッ。
(二郎)ああ、俺ずっと気になってたんですけど、タクシーの運転手さんって—信号待ちのとき、それ、何書いてんですか?
(松田)塗り絵です。
(二郎)塗り絵か。塗り絵やってんの?
(松田)ええ。
(二郎)全員?
(松田)ええ。あたしらタクシードライバーはね—塗り絵も車線も、はみ出しませんよ! プップ~。
(二郎)いいよ。周りの人、分かんないんだよ。
(松田)お客さん、ところでこれ、どこまで行きゃいいんですかね?
(二郎)新宿まで向かってくださいよ。
(松田)あ~そうですか。じゃあ、気合い入れて行きますんでお願いいたしま~す。♪“一番星ブルース”。
(二郎)なんでトラックになってんだよ? なんで俺がたたかれてんだよ? お前、ピーナツ詰まってねえじゃねえか、これ。
(松田)あっ、ピーナツは…そうです。
(二郎)なんだ、それ! さんざん詰まってるって言ったじゃねえか。
(松田)あっ、着きました。
(二郎)もう着いた?
(松田)はいはい。
(二郎)早かったね。いくら?
(松田)5000円です。
(二郎)高たけえな。
(松田)あっ、途中からトラックになったんで。
(二郎)お前の勝手だろ。お前がトラックにしたんだよ。
(松田)5000円!
(二郎)1万円しかないんだけど。
(松田)お釣りねえよ、バカ野郎。半分にちぎれ。
(二郎)いいのか? こんなことして。
(松田)まいど。
(二郎)まいど。あれ? 来たとこに戻ってるんですけど。
(松田)お客さん、まだエンジンかかってませんよ。
(二郎)いいかげんにしろ。
