【M-1グランプリ2007】トータルテンボス『ホテルのフロント』分析/書き起こし

1. ネタ名と芸人名

ネタ名:「ホテルのフロント」
芸人名:トータルテンボス(藤田憲右・大村朋宏)


2. 役割構造(コンビ内の機能分担)

逆転型+ツッコミ主導型
基本的には大村が“キャラボケ”としてフロントマンに扮し、藤田が鋭くかつ感情を爆発させながらツッコむスタイルだが、藤田のツッコミが会話を誘導し、事実上の進行役として主導権を握る。終盤では大村の冷静な語りがカオスを加速させ、役割が攪拌される“逆転”の快感もある。


3. 型(構造・スタイル)

ワールド構築型+構造破壊型+回収型
一見“ホテルあるある”をデフォルメしたコントに見えるが、次々と情報を更新していき、ありえない設定(中華の部屋・ジンギスカン・露天風呂の絶景が新館で見えないなど)で独自の“世界観”を創り上げていく。
そしてラストでは「ボイラー室しか道を知らない」という初期のギャグが伏線として効いて“中華の部屋”に戻ってくることで回収。構造がしっかり練られている。


4. ネタスタイル(演技・テンポ・空気)

演技&空気重視型+ナチュラル会話型+キャッチーフレーズ型
自然な会話テンポに、大村の奇妙にリアルな演技(鼻つまむ、チェックインの口調、無駄な敬語)が乗ることで、非現実的な設定にリアリティが宿る。
「ウン!で開く」「中華の部屋」「ジンギスカン」など、キャッチーな単語の破壊力も高い。


5. 構成要素の流れ

  • ツカミ:藤田の「俺が客やるから」で即設定に入る
  • 展開:チェックイン→部屋の種類→施設案内→トラブル発生
  • クライマックス:火事・非常口パニック
  • オチ:「中華の部屋」に戻って「チェックアウト」
  • 回収:「ウン!で開く」「ボイラー室」など伏線が効いている

6. 笑いの源泉

  • ズラし:「和・洋・中の部屋」「ルームサービス」など言葉の意味のズレ
  • 誇張:「油まみれの床」「いわく付き」「すき焼きパーティー」
  • 構造遊び:「チェックイン→火災→避難」までを自然に繋げる
  • 言葉遊び:「オートロック→ウン!」「ジンギスカン→すき焼き専門」
  • 感情の暴走:藤田の「施工主のバカ」「封鎖しろ」などツッコミの爆発力

7. キャラのタイプと関係性

  • 大村:天然系ボケ+設定ブリーダー。無表情で非現実を語ることで笑いを引き出す“静的ボケ”の達人。
  • 藤田:感情ツッコミ+リアクター。視聴者の気持ちを代弁しつつ、言葉のズレに正確に反応する。

8. 演技・パフォーマンス面

  • 藤田:怒鳴るだけでなく、感情の“幅”がある。「ジンギスカンって何だよ」から「施工主のバカ!」まで怒りのバリエーションが豊富。
  • 大村:常に丁寧語でしゃべる「ホテルマン口調」が、状況とのギャップで笑いを生む。特に「ウン!」で開けるシーンの身体性と声のトーンが秀逸。

9. 客観的コメント

このネタは、現実の“ホテルあるある”からスタートし、徐々に非現実へとズレを大きくしていく“逸脱型コント漫才”の典型。
ディテールに宿る笑いと、情報の密度の高さ、テンポの速さが特徴で、観客は“突っ込みの連打”を浴びる快感を味わえる。
言葉のセンス、伏線の回収、そして何より「中華の部屋」という象徴的なギャグが、物語を一つの“寓話”のように完結させている。非常に完成度が高いネタ。


10. 最終コメント

トータルテンボスの「ホテルのフロント」は、観光地の宿という日常的な設定をベースにしながら、次第に現実の枠を外れていく“虚構構築型のコント漫才”として、安定感ある仕上がりを見せた。大村の演じるホテルマンが、鼻をつまみながら淡々と非現実を語るスタイル──中華の部屋、ジンギスカン館、オートロックの「ウン!」開錠──は、言葉の響きと状況のズレを丁寧語で包むことで、異様さが逆にリアルに感じられるユニークな構造になっている。一方、藤田のツッコミは怒り・呆れ・突っ込みきれなさを自在に行き来し、単なる否定ではなく“リアクションの豊かさ”によって世界観に深みを与えている。
ただ、全体の展開としてはやや“想定内”の印象も残る。ベタな設定から徐々にズラしていく構成は丁寧だが、裏切りやひねりが観客の予測を超えるところまで突き抜けていない点は、審査員コメントでも指摘された通りだ。また、M-1ラストイヤーという背景が、評価のトーンに影響していた可能性も否めない。とはいえ、伏線の回収や構成力の高さ、安定感ある演技にはやはりトータルテンボスらしさが光っていた。長年築いてきた技巧とコンビネーションが生む“計算された笑い”の到達点として、一定の完成度を示した一本であることは間違いない。


【書き起こし】

(藤田)はい どうも! トータルテンボスです
(藤田)よろしくお願いします
(大村)聞いてほしいん だけどさ
(大村)俺 最近 いろんなヤツから お前 観光地のホテルの フロントマンぽいなって言われる
(藤田)どんな言われようだよ お前 それ
(大村)コアだろ?
(藤田)コアだなあ
(大村)10人に8人は言われるんだよ
(藤田)かなりの率で 言われてんじゃねえかよ
(大村)せっかくだから やってみたいなと思ってさ
(藤田)じゃ 俺が今から宿泊客やるから お前フロントマンやれよ
(大村)しのびねえな
(藤田)かまわんよ ホントに
(藤田)やあ 疲れた よいしょ~
(大村)いらっしゃいませ
(大村)お客様 大浴場は あちらとなっております
(藤田)失礼だろ! 鼻つまんでんじゃねえよ お前 おい
(大村)本日は ご予約のお客様…(鼻声で)
(藤田)鼻の息を止めるな ちゃんと しゃべれ
(大村)お客様のお部屋なんですけども こちら931号室となっております
(藤田)931です… 931クサイって何だ クサイって!
(大村)臭いですよ
(藤田)臭くねえよ バカ 臭くないバージョンでやれ
(大村)いらっしゃいませえ
(藤田)どうも 予約してた藤田です
(大村)滞在日数のほうは 何泊4日にいたしますか?
(藤田)3しか入んねえよな そしたら
(大村)3泊4日で大丈夫ですか?
(藤田)勝手に決めつけんな 1泊だ 1泊
(大村)1泊4日ですね
(藤田)3日間 何すんだ俺 眠れねえのか アホ
(大村)お部屋の種類のほうなんですけども 3種類ございまして 和 洋 中の中から お選びいただけますが
(藤田)バイキングか お前のところは 和室 洋室 分かるけど 中って何だよ 中って
(大村)もちろん 中華のお部屋でございますが
(藤田)中国的な飾りつけの部屋?
(大村)飾りつけとか そういう問題ではなくてですね 少々 床のほうが 油まみれとなっておりまして
(藤田)中華料理屋の厨房ちゅうぼうじゃねえか 誰がそんな部屋 泊まんだ
(藤田)和室でいいよ 和室で
(大村)かしこまりました
(大村)当ホテル 全室 オートロックとなっておりまして 万が一 お客様がキーを 中に忘れてしまった場合ですね
(大村)外から ドアノブを握っていただきまして ウン! ってやりますと 簡単に開きますのでご安心ください
(藤田)安心できねえよ! 不安で夜も眠れねえや
(大村)ただ今 時刻のほう 17時30分ですけども お客様 今から 部屋に入られましたら 真っ先に お休みになりますよね?
(藤田)おじいさんか 俺は! いろいろ やることがあるの ヤングだ ヤンガーだ ヤンゲストだ 俺は
(大村)なるほど テレビのほうで— 林家はやしやペーチャンネルのほう ご覧になるわけですね
(藤田)何だよ そのふざけたな 専門チャンネルはよ
(大村)確かに かなりのピンク映像ですもんね
(藤田)着ている服の色がな 全然エロくねえじゃねえか
(藤田)そんなもん見ねえわ アホ
(大村)続きまして 当ホテルの 施設の場所の説明なんですが 当ホテル こちらの本館 そして別館 新館— ジンギスカンから 構成させておりましてですね
(藤田)ジンギスカンって何だ 遊牧民 御用達か それは
(大村)まずは大浴場の場所なんですが ボイラー室を右手に見まして 突き当たりが— 大浴場となっております
(大村)宴会場の場所なんですが ボイラー室の前の階段を 下っていただきまして 突き当たりが宴会場です
(大村)最後に売店の場所なんですが ボイラー室…
(藤田)フロントから話してくんねえかな! 俺ボイラー室の場所 知らねえし マジで
(大村)申し訳ございません 当ホテル どこに行くにも ボイラー室からの 行き方しか教わっていませんでして
(藤田)お前 教育係のチーフ連れて来い ボコボコにしてやんよ
(大村)チーフも ただ今 ボイラー室にいらっしゃいます
(藤田)お手上げだ おい 迷宮入りじゃねえか この件は
(藤田)あと 何か ルームサービスみたいのないっすか
(大村)もちろん ございますけれども
(藤田)どんなサービスですか?
(大村)もう1つ お部屋のほうを ご利用できるというサービスですが
(藤田)持てあますわ 1人で来てんのに お前
(藤田)文字どおり ルームサービスして どうすんだよ お前
(大村)そのルームサービスじゃ なかったんですか
(藤田)そのまんまじゃねえか そしたらよ
(大村)ただ このルームのほう かなり豪華なルームと なっておりまして
(藤田)どんな豪華さだよ
(大村)空気清浄機付き 庭付き 露天風呂付き— いわく付きとなっております
(藤田)いわくは 御免だよ ひいては ご法度
(大村)どういった いわくかと言いますと
(藤田)おい 言うな マイナスじゃねえかよ
(大村)ぜひ話さしてください
(藤田)なんで興奮してんだよ 気持ちが悪い
(大村)このあいだ 私が仕事をしていましたら その いわくとされる部屋から— キャーという 女性の悲鳴が聞こえまして
(大村)その部屋に入ってみますと 案の定 女性が1人 床に倒れておりまして
(大村)その女性の下には— それはそれは おびただしいほどの量の… 油が
(藤田)中華の部屋だろ! 封鎖しろ そんな部屋
(大村)スッテンコロリンしたのかな
(藤田)スッテンコロリンしたんだよ そうだよ
(大村)そして最後に 当ホテルの 最大の自慢なんですけども
(大村)なんといっても露天風呂でして そこから見晴らせる オーシャンビューの眺めは—
(大村)それはそれは絶景だったんですが
(藤田)ですが?
(大村)昨年 その前に 新館を建ててしまいまして 全く見えなくなりました
(藤田)台なしじゃねえかよ! 施工主のバカ
(大村)ねえ~ お電話です
(藤田)ガチャ ええ!? ガチャ
(大村)大変です ただ今 ジンギスカンで行われていた— すき焼きパーティーの ガスコンロの火元が原因で— 火災が発生した模様です
(藤田)今の短けえあいだに そんなに聞いたんすか
(藤田)えっ ジンギスカンで すき焼きパーティー?
(大村)ジンギスカンは すき焼き専門館なんですよ
(藤田)ややこしいわ! ジンギスカンやれよ
(大村)そんなことより ジンギスカンが 火事だって言ってるじゃないですか
(藤田)だから なんだ こっから離れてんだろ?
(大村)ジンギスカンといえば 最も火のまわりが早くなるように 危険に造られてるんですよ
(藤田)施工主のバカ!
(大村)ああ… 火の手が やばい やばい
(大村)出口が塞がれてしまった
(藤田)どっか逃げるとこ案内しろよ
(大村)確か客室で1つだけ 非常口に つながる部屋があったんです
(藤田)そこ連れてけ おい
(大村)でもボイラー室からの行き方しか 分からないんです
(藤田)お前 裏目に出てんじゃねえか 思い出せ
(大村)思い出しましょう 確か… 確か ここだ
(大村)ああ! 鍵のほうを忘れた
(藤田)何やってんだよ
(大村)ウン!
(藤田)開くのかよ おい
(大村)ツルン ツルン
(藤田)中華の部屋じぇねえかよ!
(藤田)待て待て待て お前 全然できてねえじゃねえかよ
(大村)そうだな 漫才のほうもチェックアウトしよう
(藤田)もういいよ

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