【M-1グランプリ2004】麒麟『100キロマラソン』分析/書き起こし

1. ネタ名と芸人名

  • 芸人名:麒麟(川島明・田村裕)
  • ネタ名:100キロマラソン

2. 役割構造(コンビ内の機能分担)

  • ツッコミ主導型 × キャラ型の融合
  • 川島が“語り部型ツッコミ”として世界をナビゲートしつつ、田村がリアクティブに突っ込むことで実質的にはボケとの逆転現象が生じている。川島の語りが暴走し、それを田村が“感情の爆発”で受け止める構図。

3. 型(構造・スタイル)

  • ミッション完遂型×ワールド構築型
  • 「100キロマラソンで好感度を上げる」という明確なミッションを中心に、番組風実況や感動演出を通じて、完全に虚構のテレビ番組世界を構築していく。

4. ネタスタイル(演技・テンポ・空気)

  • 演技&空気重視型 × キャッチーフレーズ型
  • 川島の“語り”はテレビ実況のパロディとして非常にリアルで、その空気を田村が「なんでやねん!」的に割って入る。「俺が動物なってるやんけ」や「武道館の鍵ない」などのフレーズは一発で画が浮かぶキャッチーさ。

5. 構成要素の流れ

  • ツカミ:ムツゴロウネタでの“ニホンタムラ”のボケ
  • 展開:100キロマラソン企画での実況ボケの連続
  • クライマックス:川島が勝手に走り出す逆転現象
  • オチ:「ラジオかい!」という見事な世界の引き剥がし
  • 回収:最初の“感動”というテーマへのアイロニーで完結

6. 笑いの源泉

  • 構造遊び:実況が雑→過剰→感動演出→ニュース速報→ラジオと、放送形態そのものを転がす
  • 感情の暴走:田村の「なんでニュース流れんねん!」という絶叫に象徴される

7. キャラのタイプと関係性

  • 川島:暴走ナビゲーター(冷静に見えて世界構築が狂ってる)
  • 田村:エモーショナルなリアクター(常識人としての怒りを笑いに変換)

8. 演技・パフォーマンス面

  • 川島:声の緩急、抑揚を駆使した実況風モノローグ。絶妙なテンポと“盛り上げすぎ”の滑稽さ。
  • 田村:体の反応、息切れ、顔芸を含むエモーションの爆発で空気をひっくり返す。終盤の「俺たち頑張れ」は名演。

9. 客観的コメント

このネタは「テレビ番組を模倣しつつ徹底的に破壊する」構造遊びの極致であり、演技力・構成力の両面で高い完成度を持つ。映像や演出に慣れた観客にこそ刺さる、メタ的な笑いと感情の交錯が魅力。


10. 最終コメント

川島の実況は、一見真面目な語りに見えて、内容は完全に脱線。田村がそれを受け、現実的な怒りとツッコミで観客の立場を代弁する。二人の間に流れる“息の合わなさ”の中の絶妙な呼吸感が、逆にリアルな芸としての魅力を放っている。


【書き起こし】

(田村)どうも こんにちは 麒麟でございます。
(川島)麒麟です お願いします。
(田村)お願いしま~す どうも~。最近思うんですけどね、やっぱね、この世界入った以上はね、もっとテレビ出ていきたいと思うんですよ。
(川島)テレビ出たいね。
(田村)出たい番組あるんですよ。
(川島)どんなん?
(田村)好感度を上げる番組。僕がムツゴロウさんのように動物をかわいがるんですよ。おーし おしおし…おーし おしおし…おーし おしおしおし…
(川島)おやおや ニホンタムラがヤシの実を磨いています。
(田村)ニホンタムラてなんやねん、俺が動物なってるやんけお前。
(川島)ムツゴロウに触られるほうじゃないの?
(田村)違う違う、俺がかわいがんのや。
(川島)でも好感度上げたいんやったらな、あれなんかどうですか?「24時間テレビ」の100キロマラソンっていうの。
(田村)ああ、毎年やってますね。
(川島)あれなんかいいですよ。走ってる姿、かっこいいしね。感動しますからね。
(田村)ゴールする瞬間、むっちゃ感動するもんな。
(川島)あっ 走ってる 走ってる、あっ 走ってる 走ってる 走ってる、えっ? 走ってる 走ってる、ええ? 走ってるね ええ、ゴール。
(田村)実況 下手くそやねん。近所のおっさんがやってんのか お前。
(川島)みこし見るみたいな感覚やろ。
(田村)ちゃうちゃう 違うやん。番組やからさ、盛り上げてもらわんと。
(川島)分かりました。さあ 感動の瞬間まで あと少し、さあ 感動の瞬間まで あと少し。まもなく麒麟の田村裕さんが芸能界の歴史に新たな1ページを刻み込もうと…今 田村裕さん やってまいりました。足を振り絞りながらも、最後の力を振り絞って、今 田村裕さんが ようやく…スタートを切りました~。
(田村)今からかい! 今から100キロ行くんかい! もう無理やろ、ヘロヘロすぎるやろ お前。
(川島)何してたの?
(田村)俺が聞きたいわ。違う、もう今 ゴール直前や。
(川島)ああ ゴール。さあ武道館であるゴールに向かって、今 田村裕さんがやってまいりました。おおっと 田村裕さんの姿、見えてまいりました。手を振って 大観衆に手を振って、今 武道館の前に着きました。さあ そして ポケットをまさぐって、武道館の鍵を探しております。さあ 武道館の鍵はあるか? 武道館の…あっ これ実家の鍵だ、間違えました。さあ もう1つの鍵、これはどうだ? あっ 知恵の輪だ 間違えました。さあ 鍵はあるか 鍵はあるか? あれ? 鍵がない。あれ? 鍵がない。残念 武道館に入れませんでした。
(田村)おかしいやろ お前。なんで閉まってんねん、開けといてや 頼むわ、100キロも走ってんねん。
(川島)言っとかなあかんわ。
(田村)ず~っと鍵 持ってられへんがな。穴 開くわ 胸に。
(川島)ああ 分かった 分かった。今日…今日は開いてます。はい 今日は開いてます。今日は開いてますよ。
(田村)“今日は開いてる”ていうのも もう おかしいやろ。
(川島)開いてますよ。さあ 入ってきました。さあ 田村裕さんが今 入ってまいりました。お聞きください この大失笑。
(田村)笑われてるがな。違うやろ。100キロ走っとんねん。
(川島)さあ 入ってまいりました 田村裕さん。お聞きください この大歓声。その中を田村裕さん、おっと 足を引きずりながらも懸命に走っております。足のマメが潰れたこともありました。向かい風に泣かされたこともありました。坂道で倒れ込んで 諦めようかと思ったこともありました。タクシーに乗ったこともありました。
(田村)タクシーに乗ってんのかい! あかんやろ お前! 車で移動したらあかんやん。足 組んで移動できるわ。
(川島)それでも自腹を切って。
(田村)すごないわ! 自腹すごないよ なんも。違うねん 自分の足で!
(川島)あっ 田村裕さんが 武道館の階段を走り終えました。おおっと 隣をご覧ください。なんと麒麟の川島明さんが、相方が駆けつけて2人で1つのゴールを目指します。さあ やりました。残り10メートルを切りました。さあ 2人で1つのゴールを目指して、一気に…一気にやるか? さあ残り5メートル! 最後 励まし合って、川島 最後に出てきました。
(田村)何してんねん! 何してんねん こら お前。お前 行ったらあかんやろ。
(川島)悪いが テンションが上がっていた。
(田村)あかんわ! 理由になるか そんなもん。100キロ走ってんねんから 俺。
(川島)田村裕さん ゴール!
(田村)よっしゃ~ やった~
(川島)やりました。おめでとうございます。
(田村)ありがとうございます。
(川島)おめでとうございます。100キロメートル走れる自信、最初からあったんでしょうか?
(田村)そうですね。やっぱりね、最初は不安でいっぱいでした。でもね、日本国中の皆さんに力と勇気を与えようと思ってね、一生懸命 走りました。まあ トレーニングの最中から…
(川島)ピ~ピッピピ~ ピピピピ、ピ~ピッピピ~ ピ~ピピピ。千葉県南部の洪水警報は解除されました。
(田村)ありがとうございました。
(川島)それでは ファンの方にひと言だけお願いします。ピ~ピッピピ~
(田村)なんでニュース流れんねん! 俺しゃべったらニュース流れるやんけ おい! 俺がしゃべったらニュースが流れるやんけ!
(川島)口臭くせえ 口臭え。
(田村)口が臭えやないねん! どうでもええ 全国ネットや。頑張れ 俺たち!
(川島)ハハハッ
(田村)俺たち頑張れ!
(川島)俺たち頑張れ?
(田村)おう そうや。ちゃうがな。
(川島)なんやねんな。
(田村)なんでニュースが入んねんな。
(川島)なんやねん。
(田村)あかん おかしい。これ 誰見て感動すんねん。
(川島)でも リスナーは結構 感動してる。
(田村)ラジオかい! もう ええわ。

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