1. ネタ名と芸人名
- 芸人名:ハリガネロック(ユウキ=ユウキロック、大上=大上邦博)
- ネタ名:『理不尽学校と童謡世界の暴露』
2. 役割構造(コンビ内の機能分担)
感情型ボケ(ユウキ)×ツッコミ主導型(大上)
ユウキは理不尽・疑問を感情で爆発させる“怒れるボケ”。それに対し、大上は正論で受け止めつつ、冷静にツッコミながらも、時に共犯的に笑いを増幅させる。基本構造はオーソドックスなボケツッコミ型だが、大上が一部ボケも担う瞬間があり、二人の“ずらしの掛け合い”も秀逸。
3. 型(構造・スタイル)
ストーリー展開型 × フレーズ反復型 × ワールド構築型
- ストーリー:教師体験→童謡批判→童話破壊へと展開
- フレーズ:歌詞や教師のセリフの引用反復でリズムを形成
- ワールド構築:ありふれた童謡・童話を“現実基準”で再構築し、荒唐無稽な世界にリアリティを与える
4. ネタスタイル(演技・テンポ・空気)
演技&空気重視型 × リズム共有型 × ハイスピード型
特に歌の場面では音のリズム感と感情の高まりがシンクロし、観客の没入を誘う。演技(泣く・歩く・渋い顔)も要所に挿入され、笑いに立体感が生まれている。
5. 構成要素の流れ
- ツカミ:M-1出場の報告と先生への反発
- 展開①:教科別の教師暴力エピソード
- 展開②:校則(服装・頭髪)と教師の矛盾
- 展開③:英語教師と「教科ごとのあいさつ」論
- 展開④:童謡(犬のおまわりさん、森のくまさん)の“リアル解釈”
- 展開⑤:童話(笠地蔵)の常識破壊
- オチ:「ダウンジャケット」→「もうええわ」の収束
6. 笑いの源泉
- 誇張:「硫酸をドバー」「懲戒免職や」など過剰な展開
- ズラし:英語教師への反発から古文・数学教師の言語ギャグへの飛躍
- 構造遊び:童謡の歌詞を逐語的に捉え、現実的に再構成
- 感情の暴走:ユウキの“怒れる正論”のエネルギーが笑いの源
- 言葉遊び:「084(おはよう)」など音声的な仕掛け
7. キャラのタイプと関係性
- ユウキ:真面目で感情的、社会の矛盾に声を上げる(理想主義の皮をかぶった破壊者)
- 大上:一見冷静なナビゲーターだが、内に熱を秘めている。ツッコミで秩序を保ちつつも、破壊行為に巻き込まれる
8. 演技・パフォーマンス面
- 声の使い分け:ユウキの語気強めの怒り、大上の軽妙な抑えツッコミ
- 身体表現:童謡再現での泣き真似、カニ歩き、手振りなど視覚的ユーモアが効果的
- リズムとタイミング:歌の「そうそうそう」反復が緩急を生み、笑いの緊張と緩和を誘導
9. 客観的コメント
このネタは、「ノスタルジー」と「現代的批評眼」の間を渡る芸である。
誰もが知る「歌」や「先生像」を素材にしながら、過去の当たり前を今の価値観で再検証し、破壊していく快楽がある。
ハリガネロックの強みは、“真面目にふざける”ことで笑いの純度を保ちながらも、社会的な視座すら提示する点にある。
10. 最終コメント
ハリガネロックの漫才は、誰もが心の中で感じたことのある素朴な疑問やツッコミを巧みに言語化し、爽快に笑いへと昇華するスタイルが魅力だ。「森のクマさん」の足音の矛盾を突くなど、童話や童謡といった身近な題材を扱いながらも、その指摘に妙な説得力があり、思わず笑ってしまう。「そんなわけない」と「たしかに言いたいことはわかる」が共存する感覚が心地よく、彼らのネタの核心となっている。普遍的でない題材にも挑戦してほしいと感じさせる完成度だ。
【書き起こし】
ユウキ
「まあM-1出るって決まったらね、学生時代の先生から『頑張れよ』って」
大上
「嬉しいがな」
ユウキ
「言われんでも頑張るわ!生活かかっとんねんこっちはそんなもん!」
大上
「いらんこと言わんえええねん!ありがとうでいいやん」
ユウキ
「学校の先生嫌いやってん、俺」
大上
「なんでやねん」
ユウキ
「僕らの頃の学校の先生ってね、無茶苦茶やったんですよ」
「すぐ持ってるもんでどつきよるんですわ」
大上
「まあいてましたわこれ」
ユウキ
「国語の先生やったら辞書でガーン!」
大上
「数学の先生やったらでっかい定規でガツン!」
ユウキ
「理科の先生やったらビーカーでパリーン!」
大上
「危ないがな!」
「血がだらだら出るがな」
ユウキ
「そこに硫酸をドバー!」
大上
「溶けてまう!」
「おらんようになってまうがな」
ユウキ
「行方不明の生徒ばっかりやったんですよ」
大上
「消えるまでかけたらあかんがな」
ユウキ
「ほんで服装チェックが厳しかったんや」
大上
「ありましたよ、朝の早よに校門の前で生活指導の怖い先生がね上スーツ下ジャージで竹刀持ってね」
ユウキ
「そんで僕らのとこガーって来て『松口、服装が乱れてる!』って」
二人
「お前や!」
「上スーツで下ジャージやん!」
大上
「バラバラやないか」
ユウキ
「お前が門から出られへんっちゅうねんな」
大上
「ほんまに帰られへんって話やでこれ」
ユウキ
「あとね、頭髪検査!これもきびかったんよほんまに」
大上
「今のこ髪の毛長いから大変でしょうねコレ」
ユウキ
「今の子ね、でも個性がないねホンマに」
「好きなタレントの髪型ばっかりやん」
大上
「確かにね、キムタクファンやったら髪の毛この辺(肩のあたりを指す)まで伸ばしてね」
「あゆのファンやったら色染めたりしてね」
ユウキ
「アルフィーのファンとかすごいで!」
「眼鏡かけて髭つけて長髪やからね!」
大上
「全部やんなよ!一人に絞っていかな!」
「高見沢やったら高見沢、坂崎は坂崎、桜井は桜井いうて」
ユウキ
「…茶化すな」
大上
「茶化してへんがな!」
「ビシッといったがな今」
ユウキ
「僕ね、一番嫌いな先生が英語の先生やったんですよ!カッコつけてるでしょ?」
大上
「そう?」
ユウキ
「そうやん」
「キーンコーンカーン鳴って教室入って『グッドモーニングエブリワン』…はあ?」
大上
「はあ?やないがな」
ユウキ
「こんにちは」
大上
「いや英語で返したって」
「英語で挨拶せんかい」
ユウキ
「日本でやってんねん!日本人相手にやってんのに日本語喋ったらええがな!」
大上
「英語の授業やん、みんな早いこと英語に馴染んでもらうんで挨拶も全部英語やねん」
ユウキ
「ほんなら古文の先生がガラガラー入ってきて『お早うごじゃりまする』って言うか?」
大上
「言わんけどそれは」
ユウキ
「数学の先生がガラガラー入ってきて『0 8 4』」
大上
「”084(おはよう)”って言うか!」
「ポケベルやないねんから」
ユウキ
「数字に馴染んでいこうとしてんねやんけ」
大上
「わかりにくくなってるからそんなもん」
ユウキ
「また音楽の授業もね、知らん歌歌わすから歌えへんねん」
大上
「ほな言うけどもね、童謡かてええ歌やであれ」
ユウキ
「いや童謡は悪影響の歌ですから絶対歌わないでくださいね!」
大上
「そんなことないよ」
ユウキ
「『犬のおまわりさん』なんか酷いですよ」
大上
「あれはいい歌ですよ?可愛らしい歌や」
ユウキ
「知ってんの?」
大上
「当たり前や」
「迷子の迷子の子猫ちゃん♪」
ユウキ
「そうそうそう!」
大上
「あなたのお家はどこですか♪」
ユウキ
「そうそうそう!」
大上
「お家を聞いてもわからない♪」
ユウキ
「そうそうそう!」
大上
「名前を聞いてもわからない♪」
ユウキ
「そうそうそう!」
大上
「うるさい!『そうそう』って入ってこんでええねん」
ユウキ
「合うてるから」
大上
「知ってんねん」
「にゃんにゃんにゃにゃん♪ 泣いてばかりの子猫ちゃん♪」
「犬のお巡りさん 困ってしまって わんわんわわん♪」
ユウキ
「これ現実として考えてくださいよ!」
「俺がお巡りさんな、お前が迷子や」
-大上が迷子を演じて泣いている素振り
ユウキ
「坊やどうしたの」
大上
「えーん、迷子になっちゃったよ」
ユウキ
「お家どこ?」
大上
「わかんない」
ユウキ
「名前は?」
大上
「わかんない」
「(目を覆い)ウワ〜ン!」
ユウキ
(渋い顔で腕を組む)
「(目を覆い)ウワ〜ン!」
大上
「おかしいけど!」
ユウキ
「誰が解決すんねんこんなもん!」
大上
「おまわりさん泣いてもうて終わりやけどな」
ユウキ
「懲戒免職やこんなもん!」
大上
「そない言わんでええわ」
ユウキ
「税金泥棒もええところやで!」
大上
「もうええやん」
「メルヘンんの世界やからええねんて!」
ユウキ
「『森のクマさん』も酷いですよ」
大上
「あれは楽しい歌です」
ユウキ
「知ってんの?」
大上
「当たり前や」
「ある日森の中♪」
ユウキ
「そうそうそう!」
大上
「クマさんに出会った♪」
ユウキ
「そうそうそう!」
大上
「花咲く~♪」
ユウキ
(歌詞の”森の道”に合わせ)「そう!そう!そう!そう!」
大上
「うるさいねんて!」
「花咲く森の道♪ クマさんに出会った♪」
「楽しい歌やんけ」
ユウキ
「このあとやんけ」
「クマさんの言うことにゃ♪」
「お嬢さん お逃げなさい♪」
「食うてまえや!そんなもん!食物連鎖がうまくいかへんやないか!」
大上
「そんなん気にせんでええねん!」
ユウキ
「根性なしのクマや」
大上
「優しいくまやがな」
ユウキ
「そんでお嬢さんは帰るんですよ」
「すたこらさっさっさのさ♪」
「おっさんやないねんからお前!」
「すたこらさっさて!」(ガニ股でカニ歩き)
大上
「そんな逃げ方はしてないやろ!」
ユウキ
「結局クマがついてくんねん」
「クマは”トコトコトッコトッコ♪”って可愛らしい感じやねん!逆にせな!」
大上
「ええがな音は!」
ユウキ
「あと童話!これも話したらダメですよ」
大上
「なんで?感動する話いっぱいあるがな」
ユウキ
「ある?」
大上
「当たり前や、『笠地蔵』ええ話やで」
ユウキ
「ほんま?」
大上
「寒い日に傘が売れへんから帰り道にお地蔵さんに『寒いやろ』言うて一個一個こうやって…」
ユウキ
「そんな話ちゃうわ!」
大上
「優しいお爺さんの話やんけ」
ユウキ
「いかれたジジイの話やあれは」
大上
「どんなんやねん」
ユウキ
「商品売れへんからって勝手に手付けて、石に向かって『寒いやろ』て」
大上
「お地蔵さんや」
ユウキ
「寒いからってなんで傘やねん!地蔵も思ってるわ『服くれ、服』」
大上
「言わへんわそんなもん!」
ユウキ
「『ダウンジャケットを…』言うて」
大上
「もうええわ」
