【M-1グランプリ2008】オードリー『家がボロい』分析/書き起こし

1. ネタ名と芸人名

ネタ名:「家がボロい」
芸人名:オードリー(若林・春日)


2. 役割構造(コンビ内の機能分担)

基本は若林ツッコミ、春日ボケだが、途中でボケとツッコミの境界が曖昧になる「逆転」瞬間が連続する。たとえば「俺ホントにやめてほしいのか?」と春日が感情で詰め寄る瞬間は、役割を一時的に逆転させる仕掛け。


3. 型(構造・スタイル)

テーマ追求型+ワールド構築型
「住居の話」という日常的なテーマを起点に、プレハブ、ダム、法隆寺、テクノカットなどの非現実的要素で独特の“春日ワールド”を形成する。現実の延長から非現実に逸脱して戻ってこない。


4. ネタスタイル(演技・テンポ・空気)

ナチュラル会話型+演技&空気重視型
日常会話の自然なテンポを保ちつつ、随所に演技的なギア(ハイタッチのくだりやせき込み)を挟み、空気を意図的に歪めて笑いを生む。突如出てくる「柳沢慎吾」化など、唐突な変化が笑いを加速。


5. 構成要素の流れ

  • ツカミ:「夢で会った」などの意味不明な導入(春日)で違和感を誘発
  • 展開:若林の家の不満→春日の暴走による脱線→理想の家へ
  • クライマックス:柳沢慎吾ネタと「春日かぁ…」の自問自答
  • オチ:「お前は相方探しも妥協しなかったな」→「お前最悪の物件だよ」
  • 回収:最初の「引っ越し願望」テーマに帰着

6. 笑いの源泉

  • ズラし:「プレハブ→ダム→法隆寺→地球から出てけ」など飛躍的なズレ
  • 誇張:「築1040年」「雨がたまる」
  • 構造遊び:途中でボケ・ツッコミの立場が逆転しながら笑いを創出
  • 感情の暴走:「殺さないでください」「あれだけはやめて」など感情表現のオーバーシュート
  • 言葉遊び:「ザバ~ン=郷ひろみ」「角部屋→北の湖部屋」

7. キャラのタイプと関係性

  • 春日:不条理系ボケ。状況無視・設定破壊を平然と行う“異物”として機能
  • 若林:リアルな感情と論理で応戦する知的ツッコミ。ただし時に巻き込まれ側に転じる柔軟性あり
    →両者とも「自分の役割を理解した上での逸脱」が見事

8. 演技・パフォーマンス面

  • 若林の怒りと笑いの“感情の振れ幅”がテンポの核
  • 春日の顔芸・棒読み・謎の間など“外しの演技”が冴える
  • ハイタッチや「バ~イ!」のタイミング、声のトーン操作が緻密

9. 客観的コメント

このネタは“現実”と“非現実”を往復しながら、観客の想像力を翻弄する構造的喜劇である。住居という共感性の高いテーマを入り口にしつつ、春日の異常な逸脱が観客の「常識」を破壊して笑いを生む。技術的には、若林の「不自然な状況を自然に受け入れてツッコむ力」が際立つ。大衆的でありながら、知的な味わいも残る逸品。


10. 最終コメント

このネタの魅力は、若林の“語り手としてのリアルな熱量”と、春日という“暴走する異物”が織りなすズレの連続性にある。「引っ越したい」という共感的なテーマを入口にしながら、話はプレハブ、法隆寺、テクノカット、柳沢慎吾へと飛躍していく。この逸脱を成立させるのは、若林の受け止め力であり、「殺さないでください」「柳沢慎吾なの?」というカオスなやりとりを、笑いに転化する高度なバランス感覚だ。
さらに特筆すべきは、このネタが「メタ」と「非メタ」を絶えず往復している点である。漫才中の会話に、芸人としての自意識やリアルな関係性が滲み出し、それをすぐにギャグで回収することで、観客に“これは演技か、それとも素か”という感情の揺らぎを与える。このメタ性は、笑いの手法であると同時に、彼らのコンビ関係を浮かび上がらせるものとして機能している。
ツッコミとしての若林は常に正気を保っているが、ときに感情が溢れ、それが逆にボケのように機能する瞬間もある。この“役割の流動性”こそが、オードリーというコンビの特異性であり、魅力の核心だ。彼らの漫才は、構造の自由さとキャラの不変性を両立させた稀有な存在である。


【書き起こし】

(若林)どうも オードリーです
(若林)よろしく お願いします
(若林)ええ… 今日もね 若林 春日で— 頑張って やっていきたい…
(春日)皆さん 夢でお会いして以来ですね
(若林)だいぶ 寝汗かいたと 思いますけどもね
(春日)ヘッ
(若林)今日もね 漫才を楽しくやって いきたいなと思いますけれどもね
(春日)OLか?
(若林)どの辺がOLか 分かんないんですけれどもね
(若林)あの 僕の今住んでるアパートが ボロいんでね 早く引っ越ししたいなあと 思ってるんですけどもね
(春日)確かにお前はそろそろ— 引っ越しをしたほうがいいかも 分からないな
(若林)ジェスチャーの意味 全く分かんないんですけどもね
(若林)僕の家 ボロくて 不満だらけなんですけどもね
(若林)お前 今の家に不満とかある?
(春日)うるせえ
(若林)あ… ダメだ こいつ 会話できねえわ
(若林)まあね 今日来てる皆さんはね みんな いい家に住んでると 思いますけどもね
(春日)どう見ても住んでねえだろ
(若林)失礼だろ お前
(若林)それダメでしょ 謝りなさいよ それは
(春日)ごめんね
(若林)あの… 謝ったら許してやって ほしいんですけども
(若林)で 僕の家なんですけど
(春日)ただお前だけはプレハブ…
(若林)指をさすな お前は
(若林)“プレハブ”聞こえたぞ お前よ
(若林)あの人 オートロック住んでんだよ お前
(若林)僕の家 どんだけボロいかっていうとね
(若林)まず お風呂がないんですよね
(春日)屋根もねえだろ
(若林)屋根はあるよ お前
(若林)屋根なかったら 雨 全部入ってきちゃうだろ
(春日)ハハハ… 確かにそうだ
(若林)雨 たまっちゃうよ
(春日)やめろ やめろ お前
(若林)俺んち ダムかっちゅう話だからね
(若林)ダム はまんなかった みたいですけどもね
(若林)なんでなんでしょうかね
(若林)家が古くてね
(若林)僕の家 築何年だと思いますか?
(春日)1040年だろ
(若林)法隆寺か お前は とにかくね 家ボロいんでね 早く出ていきたいんですけどもね
(春日)日本からも出てけ
(若林)お前 地球から出てけ バカ
(若林)でね 僕はね…
(春日)バ~イ!
(若林)引っ越すとしたら…
(春日)プシュ~ッ!
(若林)“プシュ~ッ”じゃねえよ お前
(若林)“プシュ~ッ”ってどこ行こうとしてんだよ お前よ
(春日)春日ワールドだよ
(若林)で 家の理想っていうのが あるんですけどもね
(若林)やっぱり都心に近くてね
(若林)おしゃれな町がいいですよね
(春日)八王子に謝れ
(若林)ごめんなさい
(春日)よし
(若林)僕のね 理想あるんですけど
(若林)お前 理想ある?
(春日)私は貝になりたい
(若林)じゃあ漫才やめちゃえば いいんですけどもね
(若林)で あの僕のね あの…
(春日)おう お前 ホントに俺に 漫才やめてほしいのか
(若林)いや 本気でやめろっていうほど お前のこと嫌いじゃねえよ 俺は
(二人)へへへへ…
(若林)ヘイ ヘイ!
(若林)ハイタッチしろよ お前
(若林)俺 手挙げたらハイタッチだろ
(春日)そんなルールねえだろ
(若林)いいから やればいいんだよ
(春日)おい プレハブ お前はどう思う?
(若林)あだ名付けんな お前 バカ野郎
(若林)僕のね 理想なんですけどもね
(若林)やっぱ 角部屋が絶対いいですよね
(春日)北の湖きたのうみ部屋でいいだろ
(若林)絶対やだよ お前よ
(若林)僕ね もう1個 理想があるんですけどね
(若林)今 はやってる デザイナーズマンション…
(春日)今 はやってるのは テクノカットだろ
(若林)お前だけだろ
(若林)テクノカットなんか日本でお前1人だぞ 今
(春日)柳沢慎吾やなぎさわしんごもだよ
(若林)2人ともやべぇヤツじゃねえかよ
(若林)お前よ 今の失礼だろ お前
(春日)そうでもねぇだろ
(若林)そこは折れろよ お前
(若林)そこ 折れろよ お前
(若林)邪魔すんだったら帰れよ バカ野郎
(春日)あばよ
(若林)あばよって何だよ お前完全に柳沢慎吾じゃねえか お前
(若林)でね 僕の…
(春日)俺 柳沢慎吾なの?
(若林)お前 春日だろう
(若林)お前 オードリーの春日だろ お前
(春日)春日かあ…
(若林)嫌なのかよ お前
(若林)そこだけは胸張っていいぞ 別によ
(若林)で お風呂なんですけど広いほうが
(春日)おい さっきのダムの話はどう…
(若林)ぶり返すんじゃねえよ
(若林)一番ほじくり返されたく ないとこだぞ 俺のよ
(若林)なんでニヤッとしてんだよ 気持ち悪い で お風呂 勢いよく入りたいよ こう ザバ~ン!
(春日)何の音だよ
(若林)いや 風呂入る音だろ ザバ~ンって
(春日)郷ごうひろみって可能性もあるだろ
(若林)ザバ~ン ジャパ~ン バカ野郎 お前 何やらしてんだ 俺によ
(春日)あれだな プロだけに客席を 湯どい… 湯冷めさせちゃう…
(若林)カンでんじゃねえよ バカ野郎 お前 何やってんだ バカ野郎 お前 ふざけんじゃねえよ お前よ
(春日)お前がなんとかしろよ
(若林)できねぇよ お前 コレ なんとかできたら もっと…最初から来れるだろ 決勝によ お前
(若林)で 僕ね 最後にひと言 言いたいんですけどもね
(春日)(せき込む音)
(若林)せき うるせぇよ お前はよ
(若林)俺 しゃべってんのにさっきから—
(若林)邪魔してくるだけじゃねえか
(若林)お前 バカ野郎
(春日)申し訳ない
(春日)殺さないでください
(若林)いや そこまで言ってない
(春日)あれだけはやめてください
(若林)“あれだけ”って何
(若林)俺 裏で ひどいこと してるみてえじゃない
(春日)テクノカットだけはやめて
(若林)自分でやってんだろ
(若林)テクノカットはよ お前
(春日)ウイ
(若林)最後に言いたいんすけどね
(若林)部屋探しは絶対 妥協しないほうがいいすね
(春日)お前は 相方探しも妥協しなかったな
(若林)いや お前 最悪の物件だよ
(若林)いいかげんにしろ
(春日)お前 それ本気で言ってんのか?
(若林)いや 本気で言うほど お前のこと嫌いじゃねえって—
(若林)さっきも言っただろ お前よ
(若林)エへへへへ…
(若林)笑えよ お前
(若林)いいかげんにしろ
(若林)どうも ありがとうございました
(春日)バ~イ!

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