1. ネタ名と芸人名
ネタ名:「ドライブスルー」
芸人名:アメリカザリガニ(柳原 哲也・平井 善之)
2. 役割構造(コンビ内の機能分担)
逆転型 + ツッコミ主導型 + キャラ型
柳原は一見ツッコミだが、怒りや戸惑いで感情が爆発するリアクターであり、途中からは実質ボケ側に引きずられている。
平井は一貫してボケながらも店員や進行役を演じ、「キャラと設定で世界を回す」側。柳原が本気で困惑することで、実質的にWボケの構造にも見える。
3. 型(構造・スタイル)
ワールド構築型 + フレーズ反復型 + 構造破壊型
「ドライブスルー」という設定世界を構築しつつ、そこに演歌・ポエム・過剰接客・単位ネタなどを強引に導入しては破壊する反復。世界の整合性よりも“ズラしの連鎖”で世界をめちゃくちゃにする構造破壊が本質。
4. ネタスタイル(演技・テンポ・空気)
演技&空気重視型 + キャッチーフレーズ型
演歌風の注文や「スルー!」「チーズバーガー!!」など、身体性とリズムを活かした台詞回しが特徴。テンポは中速だが、感情の波で緩急をつけている。
5. 構成要素の流れ
- ツカミ:「頑張っていきましょう!」からの「あ〜うるさい」で即ツッコミ。導入が軽快。
- 展開:「ドライブスルー」という設定に入ってから、次々と店員ボケが登場(演歌→声量→単位→ポッキーゲーム)
- クライマックス:「シェイク→しばくぞコーラ→飛んで12円→揉んで12円」と怒涛のダジャレ連打
- オチ:「蛍の光」で閉店→「商品も釣りももらってへん!」の怒りで締め
- 回収:繰り返し登場した“演歌風注文”や“サイズズラし”が、後半の「世界の崩壊」につながる伏線的役割を持つ。
6. 笑いの源泉
- ズラし:「注文」→「演歌」、「S・M・L」→「S・O・S」、「声が届かない」など
- 誇張:注文に必要な声量、シェイクの嫌悪、ポテトのサイズ「里」
- 構造遊び:接客システムそのものをいじる(マイクの意味、閉店まで)
- 言葉遊び:「しばくぞコラ」→「コーラですか?」、「飛んで12円」「揉んで12円」
- 感情の暴走:柳原の「お前が言いにいけ!」からの怒涛のツッコミと焦り
7. キャラのタイプと関係性
- 柳原:本来のツッコミだが、怒りと混乱が感情過多となり、リアクター寄りのボケにも転化するハイブリッド
- 平井:静かな狂気のボケ。終始抑揚のないトーンで世界を破壊する“狂人店員”キャラ
→ このギャップが観客の認知を揺さぶり、笑いを生む。
8. 演技・パフォーマンス面
- 平井の抑制されたトーンと柳原の爆発的感情の対比が鮮やか。
- 柳原の「むしゃむしゃむしゃ…野を越え山越え」や「チーズバーガー!」の叫びは身体性が高く、会場全体の感情を引っ張る。
- 「ピシャ!」でシャッターを閉めるなど、視覚的にもメリハリがあり記憶に残る演出。
9. 客観的コメント
このネタの核心は、日常の中の“誰もが経験したことのある違和感”を極端に拡張する点にある。
ドライブスルーという誰でも知っている仕組みに、「演歌」「声量」「長さ」「閉店」といった非現実を混ぜ込み、どこまで日常が壊れても“本人たちは真剣”という態度を崩さないのが技術的に非常に高度。
ツッコミである柳原が「世界の崩壊」に巻き込まれることで、観客は“どこまでが設定か”を失い、笑いが連鎖的に生まれる。観客の想定を破壊するタイミングとテンポが巧妙で、劇場向きの強度を持つ。
10. 最終コメント
店員と客の設定で進む漫才では、演歌調注文を断ち切る「流すな!」の潔さと、「サイズはS,O,S」「どこにおんねん!」の過剰な描写が独特のテンポを生む。言葉数の多い柳原に対し、平井は無言ジェスチャーで温度差を演出し、シンプルなのにクセになるノリを形成。「テリヤキシェイク」を押し付ける場面では立場が逆転し、さらなる笑いが生まれる。惜しくも決勝進出は逃したものの、M-1初期としてはかなりクオリティの高い実力派の漫才。
【書き起こし】
柳原
「頑張っていきましょう!」
平井
「あ〜うるさい」
柳原
「お前が言うな」
平井
「今日なんかね皆さんデートなんか行かはって」
柳原
「こない言うてもクリスマス世の中しているよ」
平井
「デートいうたらドライブみたいなね」
柳原
「乗ってんねやろな」
平井
「ドライブしてたらですね、ちょっと小腹が空いてくる」
柳原
「言うても運転疲れるからな」
平井
「今なんかね、ドライブスルーっていうのがあるんですよ」
柳原
「あれ便利やね。みんな知ってるでしょ」
「車でウィーンと入っていって、窓ウィーン開ける。ほんならメニューがあってその下にマイクがあってね『すいません』言うて」
平井
「(店員役で)いらっしゃいませ」
柳原
「そうそう、中と繋がってるわけね」
平井
「こちらでお召し上がりですか?」
柳原
「持って帰るわそんなもん!」
「スルー!スルー!」
平井
「スルーする?」
柳原
「スルーしにきたの!ここで食べてたら渋滞起こるし」
「(お辞儀をしながら)『すみませ〜ん』って」
平井
「ドライブスルー?」
柳原
「スルー!」
平井
「する?」
柳原
「無茶苦茶する!」
「注文注文!」
平井
「(店員役で)あ、注文。少々お待ちください」
柳原
「早よして、時間ないから」
平井
「重ねた恋は幾知れず」
柳原
「おかしいおかしい」
平井
「いつの間にやらスーパー勤め」
柳原
「なになに?」
平井
「男の数だけ腹が減る」
柳原
「腹減ったよ」
平井
「だから車でドライブイン」
柳原
「したよ」
平井
「それでは注文していただきましょう。柳原哲也で、お時間少々かかります〜」
(深くお辞儀する)
柳原
「スッと言えや!」
「そんなんしてるから時間かかるんやろ。こんな前置きいらんのよ」
平井
「(演歌の前奏風に)ナンナナン♪ナナナ♪ナンナナンナナン♪」
「ズンベラ♪ズンベラ♪ズンベラ♪ズンベラ♪」
「ズベララベッパ♪」
柳原
「あ、そう言うことね」
平井
「ズ〜ラララ〜♪タラタタッタタ〜♪」
(手を柳原に添えて番を譲る)
柳原
「(前奏にノって演歌風に)チーズバーガー♪ひとつください〜♪」
平井
「お客様」
柳原
「はいはい」
平井
「普通に注文してください」
柳原
「お前がさしたんやろ!」
平井
「演歌はTPOに合わせて」
柳原
「TPOやあらへんがな」
「そういうシステムかな思うがな」
平井
「店内話題騒然」
柳原
「流すな!」
「普通のチーズバーガーでええねん、そんなもん」
平井
「お客様すみません。もう少し大きな声でお願いします」
柳原
「チーズバーガー」
平井
「もっと」
柳原
「チーズバーガー!」
平井
「もっと!」
柳原
「(怒鳴るように)チーズバーガー!」
平井
「(嗜めるように)あ〜あ〜ダメだダメだ、お客さん」
柳原
「何やねん」
平井
「そんな声じゃ、厨房には届きませんよ」
柳原
「お前が言いにいけ!」
平井
「さぁ、大きな声で!」
柳原
「大きな声でて、なんでドライブスルーで『チーズバーガー!!!』言わなあかんねん」
「『(厨房役で)あ〜なんか言うてる』っておかしい!」
「なんのためのマイク?」
-平井、渋い顔のままゆっくり首を傾げる
柳原
「『さあ?』やないやろ」
「チーズバーガーでええ!そんなもん」
平井
「サイドメニューも色々ございますが」
柳原
「あ〜そんなんもあるね」
平井
「ポテトはいかがですか?」
柳原
「ほなそれも一つつけといて」
平井
「サイズの方はですね、順番にS、O、Sとございます」
柳原
「どこにおんねん!」
-平井、両手でVの時を作り谷間を指差す
柳原
「『山のこの辺』?わかるか!何山脈のどこやねん」
「普通のサイズがあるやろ、普通のサイズが」
平井
「普通のサイズが、寸、尺、里と」
柳原
「長い!」
平井
「デカい!」
柳原
「お前フライドポテトを”里”て、何キロ食うねん!」
-柳原、縦笛を吹くような仕草で長いポテトを食べる様子
-平井も真似して同じポーズをする
柳原
「(そのポーズで足踏みしながら)むしゃむしゃむしゃむしゃ…野を超え山越え」
-平井も同じポーズのまま足踏みを始める
-だんだん二人が向き合い始める
柳原
「むしゃむしゃ食べて行った先にはお前が!チュ、あほ!」
-二人、ポッキーゲームのような仕草
-チュ、で平井が両手を開いて「わお」と仕草
柳原
「何の出会いや!」
「求めてへんそんなもん!普通のSサイズつけといて」
平井
「(不服装に)はい、わかりました」
柳原
「それでええ、アホか」
平井
「ご一緒にお飲み物はいかがですか?」
柳原
「ああ、ほなシェイク!」
平井
「わかりました。テリヤキシェイク、ワンでございます」
柳原
「気持ち悪い!気持ち悪い!」
「何を冷たく冷やしてぐちゃぐちゃにしてんねん」
(シェイクを持った仕草)「食え!これ、食え!」
-平井、小さくブルブルと首を振る
柳原
「いらんやろ?そんなもん」
-平井、静かに頷く
柳原
「ふざけんなよさっきから!しばくぞコラお前は」
平井
「はい?」
柳原
「しばくぞコラァ!」
平井
「コーラですか?」
柳原
「あ、違う違う!」
「コラァ怒ってんねん」
-平井、柳原に隠すようにニヤニヤ笑う
柳原
「『ダジャレいうたこいつ』みたいなんやめてくれ」
「何やねん、コカコーラ、ペプシコーラ、しばくぞコーラ、いらんわ!」
平井
「フハハハ」
柳原
「ハハハちゃうわ!」
「会計!会計!」
平井
「あ、お会計の方ですね、合計500飛んで12円と」
柳原
「どこ飛ぶねん!」
「512円は飛ぶとこない!」
(両手で数字を並べる仕草)「トトトーン!」
「何で新しい位を付けたん?俺6000円て思うたやないか」
平井
「アホやな」
柳原
「『アホやな』ちゃうわ、おかしいおかしい」
平井
「あ〜すみません、間違ってました」
「500揉んで12円です」
柳原
「どこ揉むねん!」
平井
「どこでも」
柳原
「『どこでも』ちゃう!なんやその優しさはお前」
「俺が気ぃ揉むわアホ」
平井
「うまいですね」
柳原
「うまいですね』とか言わんでええ、さらっと流してくれたらええねん」
「ほら1万円!これでやって!」(紙幣を手渡す仕草)
平井
「1万円お預かりします」
「(”蛍の光”のメロディ)タンタン♪タタン♪タンタン♪タタン♪」
柳原
「何いうてんの?」
平井
「(”蛍の光のメロディ”)タラタン♪タタンタンタン♪」
-二人、向かい合って両手でシャッターが閉まる仕草
二人
「ピシャ!」
柳原
「閉まった!おい!」
「何してくれてんねん!商品もお釣りももろうてへんやないか」
「その金どないすんねん!」
平井
(受け取った紙幣を眺めて)「思わぬ収穫」
柳原
「俺の金やないか!」
「もうええわ!」
