【M-1グランプリ2001】フットボールアワー『ブサイク/早口言葉/大人っぽい幼稚園/デパートのアナウンス』分析/書き起こし

1. ネタ名と芸人名

  • 芸人名:フットボールアワー(後藤輝基・岩尾望)
  • ネタタイトル:「ブサイク/早口言葉/大人っぽい幼稚園/デパートのアナウンス」

2. 役割構造(コンビ内の機能分担)

  • 典型的なツッコミ主導型+感情型ボケ
    • 後藤は終始、理知的かつキレのある感情型ツッコミを担当。論理的整合性を壊されることに苛立ちを見せる。
    • 岩尾は徹底して自意識をねじ曲げながら、時にナイーブで、時に妄想暴走型のボケを炸裂。

3. 型(構造・スタイル)

  • フレーズ反復型+ワールド構築型+回収型
    • 「青いヒゲ」「早口言葉」「エレベーターガール」など、独立したテーマが順に展開される。
    • それぞれが膨らんで異常な世界観(大人っぽい幼稚園、デパート館内アナウンス)が構築され、徐々に後藤の怒りが蓄積していく構成。
    • 「言いにくいこと=早口言葉」といったフリとズレの回収も多層的。

4. ネタスタイル(演技・テンポ・空気)

  • 演技&空気重視型+リズムの波型
    • 後藤の怒りが高まりつつ、時折抑制的に戻る。岩尾はマイペースかつ一定テンポ。
    • 岩尾の表情・動作(ヒゲ指差し、セカンドバッグ、アナウンス模写)が視覚的にもじわじわと効いてくる。

5. 構成要素の流れ

  • ツカミ:後藤「こんなブサイク連れてきて」で笑いの導入
  • 展開1:容姿いじり〜「青いヒゲ」〜ヒゲ=渚
  • 展開2:早口言葉のズレギャグ
  • 展開3:大人っぽい幼稚園設定の異様性
  • 展開4:デパートのアナウンス・エレベーターガール妄想
  • クライマックス:メロディ乗せ「近親相姦♪」「チンプンカンプン♪」
  • オチ:「もうええわ」で強制終了(カタルシス的)

6. 笑いの源泉

  • ズラし:「早口言葉」の概念の誤認、「渚」=ヒゲ、「出世魚」ネーミング
  • 構造遊び:ボケ→ツッコミ→さらに妄想で上書き
  • 誇張:幼稚園でセカンドバッグ、保険証持参などリアリティ逸脱
  • 感情の暴走:妄想が音楽に乗ることで加速・転倒(心の叫び→近親相姦)
  • 言葉遊び:「ゴカイ」の多義、アナウンスの音声模写ギャグ

7. キャラのタイプと関係性

  • 岩尾:自己肯定と妄想で現実を歪曲する“ズレ型ナルシスト”
  • 後藤:ツッコミという名の“倫理的・常識的抵抗者”
    • ただし、ツッコミの形を借りて怒りを楽しむ共犯関係でもある。

8. 演技・パフォーマンス面

  • 岩尾:ヒゲ指差し、セカンドバッグ抱え、アナウンス模写、メロディ乗せボケなど、静的かつジワジワくる動き。
  • 後藤:怒りと呆れの間を行き来する抑揚。表情で“限界”を示す技術が冴える。

9. 客観的コメント

このネタは、「普通」という概念の境界線をボケがどれだけ踏み越えるか、ツッコミがどこまでその異常を処理できるかという“異常対処劇”である。岩尾のボケは破綻しているようで、実は情緒と欲望が通っており、観客はその“わかるけどおかしい”領域に共感と困惑を覚える。特にアナウンスのくだりは、非日常の中に潜む日常の狂気を描いていて見事。


10. 最終コメント

フットボールアワーにとって、2003年のM-1優勝に向けた前段階となった大会。別番組でも言及されていたが、この年のネタは「寄せ集め」「盛り合わせ」感があったとのこと。大阪ではこのネタ構成でも通用していたが、M-1では松本人志から55点という評価にとどまった。2002年以降は、一本につながった構成のネタを作るようになり、その転換点となったのがこの大会である。


【書き起こし】

後藤
「すんませんみんな、こんなブサイク連れてきて」

岩尾
「今日たまたまや」

後藤
「いつもや!」

岩尾
「たまたま今日こんなんなだけや。ほんまやで」

後藤
「何を言うとんねんお前」
「お客さんわろてるていうことはそう思ってるっていうことやねん」

岩尾
「そう?」

後藤
「ほんまブサイクやで」

岩尾
「何がそんなあかん?」

後藤
「まずそのヒゲやめて」

岩尾
「ヒゲ?」

後藤
「その青〜いの」

岩尾
「青いのはええやんか」

後藤
「いやあかんよ」

岩尾
「だって青い空、青い海、そして青いヒゲやで」(両手で自分のヒゲを指差す)

後藤
「やかましいわ!」

岩尾
「恋人たちが戯れる」

後藤
「戯れるか!」

岩尾
「(ヒゲを指さして)別名『渚』って呼ばれとる」

後藤
「何を良いようにいうとんねん」

岩尾
「おしゃれでしょ?」

後藤
「あかんわ。お前はな、しゃべんのも遅いのよ」

岩尾
「んなことないよ。俺な、早口言葉な、速いで」

後藤
「いやそれ言うのも遅いねんお前は」

岩尾
「速いで」

後藤
「ほんならちょっと早口言葉いうてみ」

岩尾
「え〜生麦〜生米〜生卵!」

後藤
「遅い!」

岩尾
「速いよ」

後藤
「なんやねんそれ」

岩尾
「俺これ一歳の時から言うてて」

後藤
「いや早いけどやなお前」
「早いの意味が違うねん。早口言葉いうんは言いにくい言葉をスラスラ言うことや」

岩尾
「あ、言いにくいこと?」

後藤
「そうそう」

岩尾
「(早口で)お前本当は父さんの子じゃないんだ、お前本当は父さんの子じゃないんだ、お前本当は…」

後藤
(遮るように)「言いにくいけど!」
「言いにくいの意味が違うやろ!」

岩尾
「いや”言いにくい”っていうから」

後藤
「『父さんの子じゃないんだ』ってなんやねん!」
「ほな”赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ”言うてみ」

岩尾
「(早口で)赤Tシャツ短パン、青Tシャツ短パン…」

後藤
「パジャマや言うてんねん!」

岩尾
「俺パジャマ着て寝えへんねん」

後藤
「知らんがな!お前の寝る時の格好は」
「ほな”隣の客はよく柿食う客だ”」

岩尾
「隣の客はよく昔俺が抱いた女だ」

後藤
「なんの話やねん」

岩尾
「だからちょっと気まずい…」

後藤
「いや気まずいけど隣にき来とったら」

岩尾
「あまり顔を合わせたくないっていう…」

後藤
「ちょっと待てよ。何を訳のわからんんことばっかり言うとんのや」

岩尾
「なんでよ」

後藤
「あかんよそんなもん」

岩尾
「俺ちっちゃい頃この早口言葉ずっと言うてたんやで」

後藤
「そんな早口言葉いうてたんか?どんな子供やねん」

岩尾
「いや俺はね、子供ん時から大人っぽい子供やったね」

後藤
「は?」

岩尾
「うん、大人っぽい幼稚園に行ってたからね」

後藤
「大人っぽい幼稚園てどんなやの」

岩尾
「あのね、幼稚園鞄がセカンドバッグや」(バッグを抱える動作)

後藤
「いややなおい」(同じように抱える動作)

岩尾
(バッグから取り出す動作)「中、保険証入ってるわ」

後藤
「おっさんやないか」

岩尾
「それで毎日幼稚園に」

後藤
「なんで保険証持ち歩く必要あんの」

岩尾
「でな、幼稚園の学年わけ、名前付いて、なんかあったやろ」

後藤
「ああ、あったね」

岩尾
「お前んとこどんなんやった?」

後藤
「うちはね、年少、年中、年長、大きなるのを花に例えて、たんぽぽ、チューリップ、ひまわりとこう言ってたね」

岩尾
「うちは短パン、バミューダ、長ズボン」

後藤
「なんやねんそれ」
「長ズボンてなんやねん!」

岩尾
「はまち、ブリ、カンパチ」

後藤
「こら!なんで出世魚で言うねんお前」

岩尾
「カンパチ組の時の先生好きやったね」

後藤
「いや知らんがな!」

岩尾
「懐かしい〜」

後藤
「そんな女の子に縁がないんやから偉そうに言うな」

岩尾
「そんなことないよ。学生時代なんてモテモテやで」

後藤
「いや嘘つけお前。学生時代はお前みたいなタイプはモテへんねん。ちょっと悪い奴、ヤンキーとかがモテんのよ」

岩尾
「ああ、暴走族とかね」

後藤
「そうそうそう」

岩尾
「あんなんなんでモテるかよう分からんね」

後藤
「確かにね。暴走族ってね、あいつらうるさいやろ」
「夜中バイク乗ってね、(暴走族の真似)パラリロパラリロ♪」

岩尾
「(そのメロディに乗せて)夜中にごめんね♪」

後藤
「違う!」

岩尾
「(同じメロディで)ほんとは寂しい♪」

後藤
「なんでやねんお前!」

岩尾
「心の叫びやから…」

後藤
「そんなメッセージこもってないねん」

岩尾
「だからあんなんより絶対俺の方がモテるはずやで」

後藤
「いやどんだけモテるって言いたいのお前?」
「ほなどういう女の子がタイプやの」

岩尾
「やっぱりね、デパートで働くようなね、綺麗な子がいいな」

後藤
「おお、綺麗な女性、デパートの」

岩尾
「そうそう、エレベーターガールなんかいいよ」

後藤
「確かに綺麗ねああいう人ね」

岩尾
「僕エレベーターガールをマンションのエレベーターにもつけて欲しいなと思ってて」

後藤
「いやいや、マンションのエレベーターにつけてどうなるの?」

岩尾
(エレベーターガールを真似て)「4階でございます。401の田中さんのおじいちゃん、先ほどお亡くなりになりました」

後藤
「いや聞きたくないわアホ!」

岩尾
「(両手を合わせえて)上に参ります」

後藤
「怖いねん!なんやねんそれ」

岩尾
「違うって!あの子はただの幼馴染でなんでもないって!」
(頭を下げて)「誤解でございます」

後藤
「意味ちゃうやろ!ゴカイの意味が違うねんお前」
「何を訳のわからんことを…」

岩尾
「そんなんええやんか」

後藤
「違うがな、そんなエレベーターガール嫌でしょ」
「俺がデパートでええな思うのはね、館内アナウンスね。女性の綺麗な声でふわ〜っと…」

岩尾
「(アナウンスを真似て)京都からお越しの〜」

後藤
「気持ち悪い!」

岩尾
「てっちりをお持ちの〜」

後藤
「どんな客やねん」

-岩尾、両手にてっちりを抱えて戸惑う人の動作

後藤
「なんでてっちり持ってウロウロしてんの」
「おかしいやろ、もっとええ感じや」
「ピンポンパンポーン♪」

岩尾
「(アナウンスを真似て)赤のトレーナーに緑のスカートを履いて、黄色のマフラーを巻いて、水色の靴下を履いた女の子のお母さん」

後藤
「え?」

岩尾
「もう少し、コーディネートを考えてあげてください」

後藤
「言うたるなアホ!なんで放送でそんなこと言うねん!」

岩尾
「(アナウンスを真似て)ベージュのスーツに白のシャツを着て、赤のネクタイをお召しのお客様」

-後藤、ふと自分の衣装と一致していることに気づく動作

後藤
「俺やないか」

岩尾
「今日、デパートに同じ格好の方が5人います」

後藤
「恥ずかしいわアホ!服被るのが一番恥ずいねん、言うな!」

岩尾
「(アナウンスを真似て)私、最近日増しに強くなっております」

後藤
「どういうことやねん」

岩尾
「(メロディに合わせて)結 婚 願 望♪」

後藤
「知らんわアホ!変わってきとるやないか」

岩尾
「まさか…実の父親と…?!」
「(メロディに合わせて)近 親 相 姦♪」

後藤
「こら!何をいうとんねん!」

岩尾
「あ〜!んあ〜んあな〜!(目を瞑り舌を出しながら)」

後藤
「いや、ちょっと何?何をいうとんの?」

岩尾
「(メロディに合わせて)チン プン カン プン♪」

後藤
「わけわからんわ!」
「もうええわ」

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